新婚生活を始めて一か月程経ったある日、その贈り物は玄関のドアにかけてあった。
品の良い金色のリボンの包みを開けると、そこにはクリスマスモチーフのフェイスタオルが2枚。
1枚はグリーンのパイピングで沢山のモミの木の柄。もう1枚は、赤いパイピングで沢山のプレゼントの柄。
どちらも鮮やかな色で程良くふんわりとした肌触りのもの。贈り主母。早速、母に電話をすると、弾んだ声で「六本木に出かけた時にホットマンの前を通ったの。そうしたら、可愛いタオルが飾ってあったからクリスマスプレゼントに良いかなぁと思って。『プレゼント用です』ってお店の方に伝えたら、きれいに包装してくださって。
さすがよね。私もいい贈り物ができてうれしくなっちゃったわ。」。
折角なら、会った時にくれれば良かったのに、と伝えると、「早く渡したくて。あなたの家の洗面所、まだ殺風景だから、あのタオルでおめかししてね。
朝あのタオルが洗面所にかかっていたら、きっと2人とも笑顔になるわよ。」。
確かに。引っ越してから、新生活と仕事に追われて、家を飾ることなど二の次になっていた。
最低限の家具と、取り急ぎ集めた日用品で始めた生活でも、不自由さを感じる事は少なかった。
でも、自分たちの居心地のいい場所を作ることは、見るだけで心が弾むものや使うと安らぐものを一つずつ集めてゆくことなのだと、ホットマンのタオルを手にして気がついた。そして、私がお嫁に行くまで過ごした実家は、母が家族のためにそうして集めたものがぎゅっと詰まっていた場所だった。
そういえば、子供の頃、新学期が始まる少し前には、母と一緒に六本木ホットマンの2階で、タオルハンカチを買ってもらっていた。それはお気に入りのタオルをもって学校に行くのが楽しくなるように、という母なりの応援の仕方だった。受験の頃は、風呂上がりに風邪をひかないように、1秒タオルでさっと髪を乾かしなさい!とよく言われていた。いつも家族のことを思いやり、心地よく過ごせる工夫をこらしてくれていた母のありがたみを、実家を出て初めて痛感した。
母に言われた通り、洗面所にクリスマス柄のフェイスタオルをかけてみると、その空間があっという間に華やかになった。夫も、「あのタオル、いいね。肌触りも気持ちいいし。」
と笑顔だ。その笑顔をみて、母のように、私も家族の笑顔を引きだすことができる女性になろうと決意したのだった。
東京都 I様